三度目の終わりについて

内容とは別のレベルで、面白い文章を書くコツがある。文章全体にダイナミズムを作ればいい。それは思いのほか簡単だ。具体的にはこうだ。

次のアルファベットはパラグラフに対応している。

a→b→c→d→e

普通このように書き進めるだろう。c まで進んだなら、次は d を、その次は e を書けばいいと思うかもしれない。別にそれでもいいのだけど、それでは文章にダイナミズムが出ない。それに、最悪の場合、途中で何も思いつかなくなって筆が止まってしまう。ではどうするか。d の前に話題を転換させるのだ。つまり、

a→b→c→a'→b'→c'→d

とすればよい。a' は、a とは一見すると無関係なテーゼ、あるいは力量が足りなくてうまくつなげられず、ボツにしたテーゼのこと。d は、「実はこのことは先のあれと同じことを言っている」的なやつだ。実際にそう書いてもいいし、構造上そうなっていて、書く必要がなければさらによい。論文や本を読んでいたとき、「なんでいまこの話?」と疑問に思ったことはないだろうか。そのとき実は、書き手の苦しまぎれの技術、いや、ダイナミズムの運動に巻き込まれている。

長い文章は、これの繰り返しだ。

a→b→c→a'→b'→c'→d→a"→b"→c"→d"→e

たとえばパラグラフを12必要とする場合、核となるパラグラフがa→b→c→d→e の5つだけあれば書ける。5つだけのほうがいい。もちろん数字は可変的だが、文章が長ければ長いほど、全体のうち核となるパラグラフの数の比率は小さくなる。

大学でレポートや論文の書き方を学んだことのある人なら、ひとつのパラグラフにはひとつのことしか書いてはいけない、と聞いたことがあるだろう。同じように、よくできた論文や本など、スケールが大きくなっても、理念的にはひとつのことしか書かれていない。良い作品は、同じことの反復からしか生まれないものだ。

このことは、単なるメソッドではなく、文章を書く際のメンタル面の助けにもなる。文章を書いていて、自分の言葉で書いているはずなのに、どこかで聞いたことのある言葉ばかりで自分が嫌になったことはないだろうか(わたしは毎日自分が嫌になっている)。しかし、おそらくそれでよいのだ。同じことの反復が重要なのだから。もちろん剽窃はいけないが、反復は複製ではない。自分の言葉が見つからないときこそ、誰かの言葉の海に沈んでみよう。自分の文章が誰かの言葉の反復になってこそ、自身の文章に、そして自身が貢献する分野にダイナミズムが生まれる。

ここに書いたことを、わたしはシン・エヴァンゲリオンから学んだ。Thrice Upon A Time.